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人待ちおでん屋台 9.

 風が寒い。冷たい秋風が吹いてくる。屋台のおでん屋は3人の客がいた。


 正面右の客は今は入って来たばかりだ。中央は常連のぎょろ目男。


「お客さん、好きなのを選んで下さい」


 女将の声に、入って来たばかりの30歳前後の男。


「あのう、持って帰れますか?」


「ビニール袋へ入れますがよろしいですか?」


「はい、ではお願いします。さつま揚げ、ちくわ、玉子、大根、じゃがいも、もう一個さつま揚げ。それで良いです。お幾らですか?」


「六百円です。おつゆ多めに入れときますね」


「ありがとう」


 男が帰ろうとすると、ぎょろ目男が、


「よっちゃんじゃないか?」


「あっ、先輩じゃないですか。お元気ですか?」


「おまえ、この辺に住んでるのか?」


「はい、直ぐ近くです」


「それ、みやげ?」


「いえ、めしと酒のおかずにと思いまして」


「そうか、じゃ、少し付き合え。女将、悪いけどそのおでん帰りまでよろしく。おまえ、何呑む」


「日本酒が良いです」


「今帰りか?」


「そうなんです。いつもは早いんですけど今日は残業でした」


 そこへコップ酒が出された。


「いただきます。あっ、うまい!辛口だ!」


「そうだよ、ここのは珍しく辛口の酒だ。おでんに合うぞ。何か貰え」


 ぎょろ目とよっちゃんは懐かし話に花が咲いた。周りにも筒抜けだ。


 他の二人の客は聞いていないふりして聞いている。


「そうか、紗代ちゃんとは別れたのか」


「いいえ、帰って来なくなったのです。もう、一年になります」


「喧嘩したのか?」


「いいえ、しません。理由はわかりません」


「探したのか?」


「はい、職場に電話しました。退社していました。それで実家にそれとなく電話しました。結婚しているわけではないので不審がられました」


「しかし、電話まで解約するとは余程の事があったのだろうな?」


「僕には、全く身に覚えが無いのです」


「それだよ。それが原因かも知れない。原因は二つある」


「聞かせて下さい。原因は何ですか?」


「わからないところに原因がある。良くある話だ。生活習慣だ。無意識にやっている。生活習慣だから言わない。もう一つは他に相手が出来た場合」


「ちょっと待って下さい。話はもう結構です。帰ります。お酒お幾らですか?」


「それは俺のおごりだ」


「すみません。おでん入れて下さい」


 男はおでんを手に帰って行った。屋台の中は誰も口をきかない。ぎょろめは余計な口出しをしたとバツが悪そうに、


「女将、おあいそして」


 ぎょろ目も帰って行った。


 残った二人の客は無口だ。いつもは饒舌な女将も無口だった。程無くこの二人もそれぞれに帰って行った。


 皿とコップを洗いながら、ふと思った。私と同じだわ。2年待ったわ。それから3年。今もどこにいるかわからないわ。


「おでんくれる?」


「いらっしゃい、お好きなものをおっしゃって下さい」


 女将は言いながら皿と箸を手にしたまま、その客を凝視した。客もあっと声を出した。


「元気だった?」


「元気よ」


 女将は明るく言った。心は抑えきれなく。涙が溢れてきた。


 続きは9月30日朝10時に掲載します


 男は目を逸らすと、


「ごめんね。話があるんだ。ここは何時まで?」


「今、閉めようと思ってたの。少し待ってね」


 女将は風呂屋の駐車場から小型の乗用車を乗り付けた。おでんを具と汁に分けてトランクに入れた。おでん鍋もこれは毎回洗うからである。


 屋台は店の横に付けて並べた。男手があるから直ぐに終わった。ここは常設場所になっている。


「どこに行きます?」


「話がしたい。どこでも良い」


「じゃ、近くのファミレスに行きますか?」


「良いね。そこに行こう」


 4人掛けのテーブルに案内された。珈琲が届くまで二人は無口だった。男は珈琲を一口の飲むと、


「混んでいるんだね」


「そうよ。まだ11時だからね」


「実は君を捜していたんだ」


「お金なら無いわよ」


「そんなことじゃない」


「冗談よ。どうしてなの?」


「どうしてもお願いしたいことがある」


「だから、何なの?はっきり言いなさいよ」


「・・・・・・」


 男は女将の顔をじっと見つめた。          つづく 

 

続き10回は10月7日金曜日朝10時に掲載します