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人待ちおでん屋台 5.

「何だかせつなくなる言葉ですね。私のは単純です。勝手に好きになっただけです。ずっと年上の人です。実は高校時代の担任です」


「そう言えば、僕の高校時代の先生も教え子と結婚したな。もっとも、卒業して10年も経ってからだけどね。その先生、今どうしているの?」


「その先生は一昨年転勤になりました。最も奥様もお子様もいらっしゃいます。こちらが知ってるだけです」


「悲しき片思いか…」


「いいえ、美しい思い出ですよ。純粋に人を好きになるって素敵ですよ」


 女将が口を挟んだ。


「そうなんだ。ひょっとすると女将さんも?」


「あらあら、私にお鉢が回って来たわね。そうよって言いたいけど昔のことですよ」


「昔って、女将さん失礼だけどまだ四十前後だろう?僕とあまり歳は変わらない。純粋に人を愛せないと言うこと?」


 女将は黙ってしまった。余計なことを言ったと反省していた。女は思わぬ展開にこちらも黙ってしまった。そして、屋台は2,3分の沈黙が続いた。


「はは、何だか気まずい雰囲気。お酒頂戴。冷やで良いよ」


 男が堪らず口を開いた。


「どうぞ……ごめんなさい。嫌な思いさせてしまいましたね。つい、考え込んでしまって…この仕事初めてなんです」


「そうなんだ。僕だって先月転職したばかりです。年末に倒産でした。初めての転職でしたが、今、夢があります」


「あのう、私も今月から転職したばかりです」


 女が言う。


「えぇ?本当に?三人が一緒だとは奇遇だな。女将さん、この人にお酒出して。女将さんの分もね。何かの縁です。乾杯しよう」


 女将は一瞬戸惑ったが、客の女性のことがある。すぐに用意した。


「さ、乾杯しよう。良き船出のために、乾杯!」


 女将も女も成り行きに逆らえず、にっこり笑って乾杯した。


「ところで、あなたの名前は何と言うの?僕は佐伯と言うんだ」


「水野と言います。よろしくお願いします」


 そこへ、新たな客が入って来た。佐伯は水野の方に体を寄せ、客への間隔を広げた。


「今日も寒いね。ウーロンハイ頂戴」


 と言いながら足元に風呂道具の入ったかごを置いた。目をぎょろぎょろさせた小柄の男だ。その目で二人を見た。


「こんばんは、寒いですね。風呂上りに我慢して、ここで飲むウーロンハイが最高でしてね。このために一日働いているようなもんです」


「はい、どうぞ」


 女将がウーロンハイを差し出す。


「ありがとう。大根といか巻き頂戴。ここの大根はうまいんですよ」


 男は水野の方へ顔を向けて言う。佐伯は自分に言われたと思い、


「うまいですね。食べてますよ」


「でしょう!これがウーロンハイに合うんですよ」


「はは、それで…寒い中、ウーロンハイなんですね」


「風呂上がりだから、寒くは無いんですよ。むしろ冷たくて、喉に心地良いです」


 そこへ客が入って来た。その男は初めから屋台の右横に立った。通りがかりのようだ。


「いらっしゃい、暫くですね」


 女将が声を掛ける。


「もう無いかと思って来たが、あって良かった。酒、熱燗にして」


「あら、残念でした。続いてるわよ」


 男は笑っている。40歳前後でスーツを着ている。女将は気さくに言葉を返す。知り合いのようだ。

                            つづく                                

続きは6回は4月1日朝10時に掲載します