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人待ちおでん屋台 3

 「おでん下さい」


「はい、何に致しましょう」


 女将は男に笑顔を見せ、皿を手に長箸持った。


「大根とさつま揚げにこんにゃくをお願いします。女が一人来ませんでしたか?」


「どうぞ、いえ、いらっしゃいませんが…」


 女将はおでんを出しながら答えた。


「やっぱりね」


「どうかしましたか?」


「いつも長風呂だから。ここで待つ約束したのです」


 その時、男の背中をちょんちょんと突きながら、


「お待たせ、ごめんなさい」


 その男よりかなり年上の女性が立っていた。女は四十歳前後。少し暗いが優し気な顔をしていた。


「僕も今来たばかりなんだ。ほら、おでん頼んで」


「おいしそう。なに頼もうかしら…」


 女が男に振り向いた時、艶めかしいようなシャンプーの匂いがした。

  

「だいこんうまいよ」


「おつゆがおいしい証拠ね。だいこんとさつま揚げ下さい」


「おばさん、俺にはビールくれる」


「すみません、お酒と焼酎しか置いてないんです」


 連れの女は思った。おばさんだって。私と殆ど歳は変わらないわ。この人、私のこともそう思っているのかしら。


「じゃ、焼酎のウーロン茶割り貰おう」


「ね、直ぐ帰るんじゃないの?あたし、まだ髪が乾いてないの」


「一杯だけ。良いだろう?」


「良いわよ。一杯だけね」


 女はにっこり笑いながら言う。何とも微笑ましい様子を先客の2人は見ないふりして見ていた。


「おいしい……」


 女は呟くように言うと、箸で分けるように切りながら食べていく。ゆっくり味を確かめるように食べている。


「どうしたのだ。目なんか瞑っちゃって」


「おいしいの…おつゆの味は薄いのに、だいこんに味がしっかりついていてとてもおいしいの…」


 女は声をひそめる言う。


「当たり前だよ。おでん屋なんだから」


 ひそめた声でも目の前の女将には聞こえていた。女は男の言葉を打ち消すように、


「だから、違いがあるのよ」


「ふーん、どこも同じようだけどね。ネタの製造問題はあるかも知れないがね」


「はは、確かにネタ元の問題はあるかも知れないが、肝心なのは汁(つゆ)にあるよ」


 先に来ていた男が口を開いた。小声のつもりが狭い空間だ全て聞こえていた。男は続ける。


「ママを目の前にして言うのは世辞のようだが、ここのおでんはうまい。それはこの汁にあるからだ」


 この男は女将のことをママと言う。女将では屋台にはそぐわないとおもってのことか。


「そうですよね。このお汁は味が濃いのです。しょっぱさではありません」


 女は我が意を得たりと言う。


「多分、そこにこの店の秘伝があるのだろう。屋台ではもったいないと思う」


 先の男は頷きながら言う。


「私、今日が初めてですが。この味に驚きました。多分その秘伝でしょうが、おいしさに感動しています」


 その言葉を女将が嬉しそうに聞いて、


「そんな、秘伝などと言うものではありません。手抜きですよ」


「手抜き。まさか?」


 先の男はわざと目をむくようにして言う。


「私、昼間は別の仕事をしていますから、昆布で長く出汁をとるわけにはいかないのです。だから、とろろ昆布を使っているんですよ」


「えっ、それ教えて下さい」


 女は乗り出すようにして訊ねた。

                           つづく

続き4回は11日金曜日朝10時に掲載します